或る闘い(ぱーと3)


 夏は嫌いだ。
 何と言っても暑い。暑過ぎる。あまりの暑さに運動能力はもとより思考能力だって低下するし、何かをする気力も汗と一緒に流れてしまう感じがする。
 暑さに比べたら、冬の寒さなど可愛いものだと思う。寒さは厚着をすればしのげるが、人間薄着には限界がある。
 嗚呼、何故日本には夏という季節があるのだろう。早く冬が来ないだろうか・・・と言いつつ、冷え性かつ低血圧の俺は、冬になったらなったで文句を並べ立てるのだから、「夏は嫌い」というより「夏も嫌い」とした方が正しいかも知れない。
 暑いならエアコンやクーラーをつけりゃいい、などと思った軟弱な輩は、俺とは友達になれないだろう。
 俺の身分は学生だ――頭に「貧乏」がつくような。
 だから毎日毎日バイトに明け暮れ、生活費を稼ぐのに精一杯。クーラーを買う金なんかありゃしない。
 まぁ、今はそんなことはどうだっていい。
 俺が夏を嫌いなのには、あと一つ大きな理由がある――とくればもうおわかりだろう。そう、ヤツとの闘いである。
 ヤツはいつも、俺が油断している時に、どこからともなくやって来る。そして隙を見計らって襲いかかる。気付いた時にはもうやられた後だ。
 その度に俺は悔しがって、次こそヤツの思い通りにさるものかと思うのだが、やっぱり同じ事を繰り返すのが常だ。
 ヤツの存在を気に病むあまり寝付けず、徹夜したことも幾度かある。そしてその翌日は、寝不足の耳にヤツのせせら笑いが聴こえてくるような錯覚を覚えるのだ。
 そして今、俺は暑さを呪いながら、部屋の真ん中の煎餅布団の上でうだっている。明日は朝からバイトなのだ、さっさと寝なければ遅刻して大目玉を喰らうのは必至――だが、どうも寝付けない。
 この部屋にいるのは俺だけ。なのに、何か気配がする。
 こういう時は、ヤツが部屋に入り込んで俺の隙を窺っている時なのだ。
 そして、俺の勘が正しかったことは、すぐに証明された。
 こっちが油断していると見て、ヤツが襲ってきたのである。
 耳元で何とも形容し難い嫌な音がして、俺は跳ね起き電気を点けた。だがヤツはすばやく身を隠してしまったのか、俺の視界には見当たらない。いつもながら見事なくらいだ。褒めてやりたいとは毛頭思わないが。
「クソッ、何処行きやがったんだ!」
 俺は毒吐きながら、窓を確認した。
 窓は開け放ってあるが、それでも網戸はきちんと閉まっている。いつも、奴は一体何処から入り込むのだろう。
 明日にでも蚊取り線香を買おうと堅く決心し、俺は奴を抹殺すべく、狭い部屋をうろつきまわるのだった。



抹殺するまで寝られない。
でも最近あまり蚊に刺されません。血が不味くなったのか。(1091字)




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