或る闘い 俺は冬が嫌いだ。 早く夏が来ないだろうか、と思いながら毎年この季節を過ごしている。 何と言っても寒い。冷え性で低血圧な俺には、ただでさえ辛い季節である。 しかも俺は貧乏学生、アパートの部屋に暖房器具はない。よって、朝は布団ととても仲良くなる。そして、講義やバイトには遅刻するという寸法だ。それもこれも寒い所為、決して俺の意思が弱いためではない・・・と思いたい。 しかし、俺が冬を嫌うのは、もう一つ理由がある。俺にとって冬とは"あいつ"との闘いの日々なのだ。 いや、そう思っているのは俺だけで、"あいつ"は俺が怯えているのを嘲り笑っているに違いないが。 今も、俺はドアの前で、"あいつ"への恐怖と必死に闘っている。後ろの友人にこの役目を渡してしまえたらどんなに気が楽か。だが、それは俺の負けを認めることになる。そんな情けないことは絶対に御免だった。 しかし・・・怖いものは怖い。 「お〜い、早くしろよ。寒いんだから」 脳天気な声に、俺は唇を噛んだ。 この友人にはわからないのだ、"あいつ"の恐ろしさが。 "あいつ"は俺の行く先至る所に潜んでいて襲ってくる。神経張りつめていようが油断していようが関係も容赦もなく、逃れられない。判っていて尚、俺は"あいつ"に対抗する術を求めて足掻いてしまう。 「おいって」 少し苛立ったような声に、俺は観念してドアに手をかけた。 瞬間。 ビリッ・・・! 「いてェっ!」 「大袈裟な奴だなー、ただの静電気だろ?」 呆れたような言葉に、俺は少し痺れた手を振りながら言い返す。 「静電気体質じゃない奴にこの痛みは判んねーよ」 ――畜生、これだから冬は嫌いなんだ! 結構痛いんですアレ。侮れない。(677字) →戻る |
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