すれ違い


 彼の視線の先にあるテレビから、部屋に虚ろな笑いが流れ出している。
 あたしは雑誌を目で追ってたけど、もう何度も読み返したそれに、いい加減飽き飽きしていた。
「ねぇ」
 あたしは思い切って、寝そべった彼の背中に呼びかけた。
 反応ナシ。
 かけた声は宙に浮いたまま。その度に溜息を吐いて雑誌に目を戻す。
 さっきから、何度こんな風に繰り返しただろう。ぎこちない空気に息が詰まりそう。
 耐えかねて、あたしはまた言葉を紡ぐ。
「何で無視するの?」
 彼は相変わらずそっぽを向いたままだった。
 むっとして、あたしはリモコンでテレビを消した上でもう一度問いかける。
「何で無視するの? こっち見てよ」
 今度はテレビを消されたのが不満だったのだろう、彼は一瞬だけ不満そうな視線を向けたが、すぐまた目を逸らしてしまった。あたしはまた、小さく溜息を吐いた。
 以前は、こんな風じゃなかったのに。少なくとも今よりはお互いを理解しあってた。一緒にいる時だって、もっと楽しかった。
 なのに、いつからあたし達はこんな風になってしまったんだろう? こんなに、すれ違うようになってしまったんだろう?
 沈黙がやけに重い。
 黙っていたらそのまま押しつぶされそうで、あたしは必死に彼に喋りかける。
「ねぇ、何がそんなに不満なの? そんなにあたしが嫌なの? あたしはあなたをわかりたいって・・・そう思ってるのに、あなたには邪魔なだけなの?」
 フンと、彼は鼻を鳴らしただけだった。まるで人を嘲るようなその態度に、あたしは思わずかっとなって怒鳴った。
「黙ってないで、何か言ったらどうなのよ!」
「・・・・・・ワン」



言葉があっても意思疎通は難しいので、こういう場合は更に大変かと。(703字)




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