再会


 私は妻と共に、少々老朽化しているアパートの前に佇んでいた。正確に表現するなら、その二階のあるドアの前に、である。
 辺りは周囲の家々の窓から洩れる明かりや階段に燈された電球の光で薄暗く、どこからか聞こえてくるテレビの音くらいしか静寂を破るものはない。

 ここは、私達の息子のアパートである。
 彼はもうかれこれ八年ほど、ここで一人暮らしを営んでいるのだ。あの人一倍ぐーたらな横着者だった息子が立派に――かどうかは多少の疑問があるにしても――自立しているのは親として喜ばしい。
 しかし、彼はここ数年、故郷に帰って来ない。当然、私達にも会いに来てくれないのである。もちろんたった一人の息子に会えないのは寂しい。
 それで、向こうが出向いてくれないのならば、こっちから黙って会いに行ってやろうと妻と二人で考えたのだ。
 息子は驚くだろうが、それも親をないがしろにした罰というものだ。どのみち大した悪戯でもない。

 不意に薄闇の中、カンカンと誰かが階段を上る音が響いた。
 ちかちか揺れる裸電球の明かりに浮かび上がったのは、紛れもなく息子だった。
 俯いていた息子が顔を上げた。すると自然、ドアの所にいる私達の姿が目に入る。
 彼の顔に驚きの色が広がるのが、私達からもはっきり見て取れた。
「親父、お袋・・・・・・」
 呆然としたように呟いた息子は、次の瞬間、手にしていた鞄を取り落とし、冷たいコンクリートの床に跪くと、拝むように手を合わせて叫んだ。
「俺が悪かった! 来年こそちゃんと・・・いや、明日にでも墓参りに行く! だから化けて出るのはやめてくれぇぇ!」



これが初めて書いたSSでした。
そして授業中に書いてました。先生ごめんなさい。(686字)




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