空飛ぶペンギン


 ペンギンは鳥だ。
 鳥だけど飛ばない。飛べない。
 多くのペンギンは「そういうものだ」と割り切って、ペンギンの生活をそれなりに楽しんでいる。

 だが、そうじゃない一匹のペンギンがいた。
 仮に名前をワゾ、としよう。

 ワゾは、すいすいと空を飛ぶ他の鳥たちが羨ましかった。
「いいなあ。あんな風に飛べたら、どんなに気持ちがいいだろう。それにきっとずっと遠くまで行けるし、もっといろいろなものが見れるんだろう」
 ワゾも、自由に空を飛んでみたかった。
「ペンギンだって鳥だ。羽だってちゃんとある。頑張れば、ペンギンだってきっと飛べるようになる」
 そう考えたワゾは、空を飛ぶ練習をすることにした。
 練習というのは簡単、高いところから思い切り羽をばたつかせてジャンプするのだ。
 でもペンギンというのは空を飛ぶようには出来ていないので、毎日毎日そんなことを繰り返すワゾの身体は、いつも傷だらけだった。

 日に日にぼろぼろになっていくワゾを、他のペンギン達は心配した。
「いい加減にあきらめろ。ペンギンは空を飛べないけれど、代わりに海を泳げる。水の中を自由に飛べるんだから、それでいいじゃないか」
 そう言われても、ワゾは諦めきれなかった。
「僕は空が飛んでみたいんだ。だってペンギンだって鳥じゃないか、飛べないはずがないよ」

 それでも、いくら練習してもワゾは飛べなかった。
 当たり前といえば当たり前だけれど、それでもワゾは「今度こそ」を信じて飛び上がり続けた。
 他のペンギン達が呆れてワゾから離れていってしまっても、ワゾはひとりで空を飛ぼうと飛び上がり続けた。

 そしてある日、ワゾはとうとう飛んだのだった。
 鳥と同じように、羽で水ではなく風を切って、ワゾは空を飛んだ。
 ワゾは、初めて空を飛んだペンギンになったのだった。

 それでも、あんなに空を飛びたいと思っていたのに、ワゾはあまり嬉しくはなかった。
「空を飛ぶのはたしかに気持ちいいけれど、でもひとりぼっちじゃ誰も見てくれない、誰も喜んでくれない。ひとりぼっちじゃ何も楽しくない」
 ペンギンはいつも仲間と一緒にいるものだ。空を飛べるようになるまでは一生懸命で忘れていたけれど、ワゾはようやく、自分が寂しいのだということに気が付いた。

 ワゾは、他のペンギン達のところへ戻ることにした。
 それから、ワゾはもう「飛ぶ」とは言わなくなった。他のペンギンと同じようにぺたぺたと歩き、海の中を泳いだ。
 ペンギンは空は飛ばないものなのだから。ペンギンはそういう鳥なのだから。

 時々、ワゾはあの時のことを思い出して、こっそり空を飛んでみたりもする。
 でも空飛ぶペンギンは、やっぱり「ひとりじゃつまらないな」と思って、海に戻るのだった。



ちょっと絵本とか童話風なカンジですね。
ちなみに「ワゾ」は仏語で「鳥」です。折角ポケット版とはいえ辞書持ってるので、使ってみました。(1165字)


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