ピアノについて其の1〜お父さんとお母さん編〜


現在、鍵盤楽器の代表といえばやはしピアノ。
ですが、ピアノってのは17世紀後半位にクリストフォリさんが発明したといわれてるので、その歴史は約300年ってとこなんですよね。

ならば、ピアノ以前に使われていた楽器は何かというと、まぁオルガン・チェンバロ・クラヴィコード辺りですね。
中でもチェンバロ・クラヴィコードの両者は、ピアノの両親ともいうべき存在です。
今ではあまり姿を見掛けないこのお二方を、ざっくばらんにではありますが紹介致します。

まずはお父さん・チェンバロ(cembalo)。伊語です。正式にはクラヴィチェンバロ(clavicembalo)で、ラテン語の「クラヴィ(鍵盤)」と「ツィンバルム(撥弦楽器の名前)」をつなげた「クラヴィツィンバルム(clavicymbalum)」が語源です。英語ではハープシコード、仏語ではクラヴサンといいます。この各種呼び名が示すように、色んな国で愛用された楽器です。

いつどこで出来たのかはよくわかってないんですが、楽器自体は14世紀頃からあったみたいです。1480年頃の楽器がどこぞの博物館だかに残ってます。

当初は伴奏やオルガンの代役といった脇役が多かったのですがバロック時代、ヨハン・セバスチャン・バッハ(大バッハ)やラモーにクープランといった作曲家達が、チェンバロのための曲をたくさん書いてくれたので、ピアノ誕生〜黎明期の17〜8世紀はまさにチェンバロの全盛期でした。
今では楽器の制作技術の伝承も断絶してしまってるんですけどね(現存する楽器を元に復元されてます)。

さてこのチェンバロ、一般的な見た目はグランドピアノを一回り二回り小さくしたような格好です。とはいえそう気軽に持ち運べるような代物でないのは今のピアノと同じで、家具調度品のような扱いをされていました。なので、蓋の裏や響板に彫刻や絵画をあしらった豪華な楽器もあります。
でも外見はそっくりでもその中身、構造には大きな違いがあります。

ピアノは鍵盤を叩くとハンマーが上がって弦を叩き、それを響板が拡大して音が鳴ります。
鳴りっぱなしだと響きがエライことになるので、鍵盤から指を離すと、連動して上がっていたダンパーが下がって消音する、とまぁ大雑把にいえばこんなとこです。
グランドピアノやアップライトのピアノの蓋を開けてみればわかりやすいかと。

仕組みとしては、太鼓や鉄琴木琴のような打楽器に近いですね。 正確には打弦楽器ですが。

一方チェンバロ。
鍵盤を叩くと、ピアノでいうところのハンマーにあたるジャックという部品が跳ね上がります。んでこのジャックには側面にツメがついていて、これが弦を引っ掻くことで音が出ます。
大まかな説明ですが要するにチェンバロは撥弦楽器で、これはギターや琴のお仲間というわけです。
構造上、あまり強弱をつけることが出来ない楽器でありました。

続いてお母さん・クラヴィコードについて。
「クラヴィ」はさっき説明したように鍵盤、「コード」は弦ですね。あとモノコードあたりからも来てるのかな。元々モノコードから発展した楽器だし。
モノコードってのは一弦琴で、音律を規定するために音程の計測を目的とした楽器です。
その用途からすると、楽器ってよりは実験器具の一種みたいなモンですが。古代ギリシャの数学者ピタゴラスはこのモノコードを使ってピタゴラス音階を生み出したわけですが、そこらへんは話せば長くなるというか、上手いこと説明する自信がないので割愛。

えーそれで、クラヴィコードですね。生まれは14世紀頃で、活躍したのもチェンバロとほぼ同じ時代です。

チェンバロが鍵盤楽器でありながら発音の仕組みは撥弦楽器であったのとは違い、クラヴィコードは鍵盤を押すとタンジェントという金属片の取り付けられたレバーが上がり、タンジェントが張られた弦を垂直に叩き、タンジェントが弦に接触している間音が鳴ります。

ピアノに近い仕組みですね。打弦楽器としてはむしろクラヴィコードが元祖で、仕組みはピアノのが相当複雑ですが。まぁ単純な分だけクラヴィコードは、演奏者の指と弦が近いとも言えるかも知れない。

そしてこの仕組みから、音量を打鍵の強さによって調節することが出来、タンジェントが弦に触れる強さを変えることでピッチが変わるので、鍵盤楽器で唯一、ビブラートをかけることが出来ます。

なので、あんまり強弱つけられないチェンバロと異なり、クラヴィコードは強弱や微妙なニュアンスをつけることができ、表現に富んだ演奏が可能でした。 もちろんそれには、繊細なコントロールが要求されますが。
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(大バッハの次男)なんかはこの楽器の支持者で、「指の力をつけるにはチェンバロを、音楽を学ぶにはクラヴィコードを」「鍵盤楽器奏者の能力を最も正確に判断出来るのはこの楽器」なんてことを本で言ってます。

ついでにチェンバロやピアノに比べると小さくて持ち運びもしやすく、値段も安かったことから実はチェンバロより一般家庭に普及してました。大バッハも息子達に熱心にクラヴィコードを弾かせたし、そのバッハの息子らが頑張っていた18世紀後半のドイツでは特に愛好されていた模様です。

ただ、豊かな感情表現が出来るクラヴィコードも音量という点ではイマイチで、合奏や広いホールで演奏には決定的に向かなかったんですよね。頑張っても精々今でいうとメゾピアノ、数m離れるともうよく聞こえない、くらいの音量だったようですから。

なので、表現力はあるけど音量はないクラヴィコード、音量は出るけど表現力に劣るチェンバロ、双方の楽器の欠点をなくしていいとこどりで作られた楽器、それがピアノなわけです。

ので、ピアノ発明当時の正式名称は「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」(伊語)という何とも長ったらしいものでした。
これは「弱い音(ピアノ)も強い音(フォルテ)も自由自在に出せるんだぜ!」という意味で、クラヴィコードとチェンバロのいいところ、クラヴィコードの表現力とチェンバロの音量を兼ね備えてる、という意味です。

そうしてピアノの誕生そして発展によって名前通りにダイナミックな演奏が出来るようになり、チェンバロとクラヴィコードはピアノにお株を奪われて姿を消していったのです。

とはいえピアノが現在の形になるまでは色々な試行錯誤があり、実際に演奏に使われるようになったのは18世紀半ば頃、鍵盤楽器の王者として君臨したのは18世紀末。今のような形になったのは19世紀半ば頃なんですけどね。

そこらへんの経緯については、またいずれ書けたらいいなぁ。


最終更新日:07/10/01





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