(無題) 「ああ、これはもう駄目だな・・・」 誰に言うでもなく呟いて、私は大袈裟に溜息を吐いた。 私は最近、工作というものをやっている。単に暇つぶしのつもりで始めたのだが、思っていたよりも難しく、だがなかなか楽しいもので、いつしか熱を入れてやるようになっていた。 目の前のこれは、私の初めての作品である。初めてとはいえ、精魂込めて創っただけあって、我ながら満足するような出来になりそうだった。 だが、一段落ついてつい休息をとってしまったのがいけなかった。 ほんの僅か離れた隙に、作品を構成する部品の一つ――特に念入りに創ったものだった――に、性質の悪い細菌が繁殖してしまったのだ。 美しい色合いをしていた表面は、その面影をすっかり無くしてしまい、代わりに細菌がひしめいている。私の油断が、芸術とさえ思えるような作品を台無しにしてしまったと思うと、残念でならなかった。 いや、もしかすると今からでも修正は不可能ではないかもしれない。だがそのための作業を思うと、私の気力はたちまち萎えてしまった。 「少し勿体無いが・・・はじめからそう上手くいくものではないしな。また新しく、より素晴らしいものを目指すか・・・」 そうして、私はそれを処分することに決めた。 * * * 終末は、唐突に訪れた。 世界はほとんど一瞬にして消滅し、何も無くなってしまった。 そして、文字通り虚無の空間に、重々しく、威厳に満ちた"声"が響いた。 「光あれ」 そして、光があった。 旧約聖書の創世記を読んで書きました。(644字) →戻る |
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