休日


 話題作の映画は、平日だというのに立ち見を余儀なくされた。
 皆ヒマなのだなと思うが、私も傍から見ればおそらく同類なのだろう。
 ちなみに私は仕事にあぶれているわけでもサボっているわけでもない。そんなことしたらたちまち鼻のいいボスに嗅ぎ付かれ、こってり油を絞られる羽目になってしまう。
 今日は人使いの荒いボスから奪い取った休日なのだ。
 寝倒そうかとも思ったが、滅多にない休日を布団の上で過ごすのも勿体ない。
 そういうわけで、私は久しぶりの映画を愉しんでいたのだった。
 映画は面白かった。
 だが満足感と開放感を満喫しながら街を徘徊していると、向こうから歩いてきた人物とすれ違い様に肩がぶつかった。
 謝って行き過ぎようとした肩が掴まれる。
「おい、人にぶつかっといてそれだけかよ」
 というか、ぶつかってきたのは向こうな気がするが。
 彼の主張を要約すると一言、「金を寄越せ」。
 冗談じゃない。私の仕事はハードな割に薄給なのだ、こんなチンピラにやるような金はない。
 にしてもこんなのにからまれるとは、私はそんなに柔弱そうに見えるのだろうか。
 とにかく、折角の休日を邪魔されてたまるか。
 そのまま逃げようとしたが、彼は執拗に追ってくる。
 通行人の中には時折不審の目を向ける人もいるが、九割以上が無関心、私など目に入らない様子だ。まぁ当然と言えば当然か。
「おい、待てよ」
 私を追って、彼も道路を渡ろうと足を踏み出した途端、彼は躍り出てきたトラックとまともに衝突した。
 あのスピードなら即死だろう。
 野次馬が集まり、救急車のサイレンが近付いて来る中を、私は一人背を向けて歩き出し、小さく溜息を吐いた。
 やれやれ、久しぶりの休日だというのに台無しだ。
 それとも、これも私の「死神」という職業のせいなのだろうか・・・



我ながら人外の出てくる話が多すぎる。(773字)




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