完全犯罪


 昔から推理小説やミステリーといったものが好きだった。
 それが昂じてか、いつしか私の夢は「完全犯罪」をやってのけることになっていた。

 何年もかけてじっくりと計画を練り、そして私はついにやってのけた――完全犯罪を。

 それは芸術にも等しいまでに完璧だった。万に一つ、否、億に一つだって、露見することは有り得なかった。

 私は満足だった――最初のうちは。

 芸術家というのは、矢張り作品を見て貰いたいものなのだ。
 私の完全犯罪も芸術的であるが故に、次第にそれを誇示したい衝動に駆られた。

 まずは、友人に話した。
 だが、友人は一笑に付した。私の仕業であるはずがない、と言う。
 そうなるようにしたのだからそれも当然だが、それで私の欲求は更に燃え上がった。

 一向に信じてくれないので、とうとう警察にも話した。
 だが、警察もまた私の言う事を信用しなかった。
 話を聞いた警官は胡散臭そうに言ったものだ――「事件があると、必ず自分がやったと言う奴がいるんだ」と。

 私のアリバイ工作はあまりにも万全だったし、証拠も何一つ残していなかった。そうでなければ「完全」にはならないからだ。
 調べれば調べる程に、私では有り得ないという証拠ばかりが固まってゆく。

「私がやったんです!」

 必死に言えば言うほど、周囲は白い目を向けるようになっていった。

 それでも。

「私だ。あれは私がやったんだ!」
 誰も信じてくれないが、私は今もそう叫び続けている・・・精神病院の一室で。

 最近ではふと、これほどにやっていない証拠ばかりがあるのだから、ひょっとして本当にやっていないのかも知れない、という気になることもある。

 だがまた思う――やった本人すらそう思うのだ、正にあれは完全犯罪だったのだ、と。



一番最初に読んだ推理モノは、小学生の時のシャーロック・ホームズ。
王道ですな。(764字)




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