free


 自由になりたい。
 彼はいつからか、そんな考えに取り憑かれていた。

「馬鹿なこと考えるなよ。今のままで幸せじゃないか。外はどんなに危険か知れない」
 仲間達は言う。
 確かに、不自由はない。申し分ないと言っていい。
 危険が襲ってくることもなく、食べ物も十分にある。
 だが、狭くはないが決して広くもない囲いの中が、彼らにとって全ての世界だった。
 ここにいる限り安全であり、また自由ではないのだ。

「恵まれているのは十分わかっているよ。それでも、僕は自由になりたい。もっと広い世界を知りたいんだ」

 安全と、自由と。

 狭い世界に嫌気のさした彼は、後者を選んだ。
 仲間達の忠告も、彼を止めることは出来なかった。

 攻略すべきは、外界とを隔てる高い壁。
 どうにかして、これを乗り越えねばならない。

 彼はそれこそ血の滲むような努力を繰り返し、とうとう壁を乗り越えて外へ出ることに成功した。

 世界がぐるりと周り、身体が固いところへ叩き付けられたが、その痛みすらも喜びになる。

――やった、自由だ!

 だが、そう思ったのも一瞬だった。
 どうしてだろう、身体が動かせない。何よりも、息が出来ない。

――どうして・・・苦しい、誰か、助け・・・

 薄れていく意識の中で、哀れむような仲間達の顔が見えた気がした。

※   ※   ※

「あれ、金魚が一匹床に落ちてる」
「ああ、最近ずっと跳ねてたやつかな。勢い余って出ちゃったんだね」
「お墓、作ってあげないと」
「そうだね」




縁日の金魚はすぐ死ぬと言いますが、ウチに来たのは数々の苦難を乗り越え結構長生きしました。(656字)



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