elegy


 何かを知っていることと、それを理解したり受け入れて納得するっていうのは、また別の次元の話よね。
 そんなことを考える時、思い出すのはあのひとのこと。
 退屈で単調な日々。出会いは突然で偶然だった。
 あのひとは一目であたしを好きになってくれた。あたしもあの人を見た瞬間、まるで電流が走ったような気がした。
 文字通り、あたしの世界は一変した。それまでモノクロームだった世界がいきなり色鮮やかになったみたい。
 あたしはあのひとをとても大切だと思ったし、あのひともあたしを大切にしてくれた――とても、幸せだった。
 お伽話だったら、ここで終わり。「そして、末永く幸せに暮らしました」のハッピーエンド。
 だけど、現実はそんなに甘くない。実際は、永遠に続く幸せなんてないものね。
 ご多分に漏れず、あたしの幸せも長続きしなかった。
 今じゃあのひとは、もうあたしに見向きもしない。むしろ邪魔に思ってる。
 そう知ったとき、あたしは絶望したわ。引き裂かれそうだと思った。
 だって、あたしにはあのひとしかいなかった。あたしという存在は、もうあのひとなくしては意味なんかなかった。本当に、あのひとがあたしの全てだったから。
 もう、あのひとの心の中にあたしはいない。すごく辛くて哀しいのに、あたしにはどうすることもできやしない。あのひとの心があたし以外に移っていくのを、止められない。
 人の心は変わりやすいもので、鎖で縛ることなんて出来ないっていうわよね。確かにその通り。
 でも、理屈と感情の折り合いをつけるのってなかなか出来ることじゃない。
 我ながら愚かだと思うけど、あたしはあのひとが離れていくのがどうしても耐えられなかった。あのひとの心を縛りつけてあたしに繋げ止めたいと本気で思ったわ。
 絶対にそんなことは無理だし、あのひとがあたしのところへ帰ってくるなんて有り得ないってわかってるのに。
 そう、もう流行から遅れた服は、箪笥の奥で寂しい想いをするしかないのよ。
 あたしは防虫剤の隣で、できるものなら溜息をつきたくなった。



タイトルが思い浮かばないと横文字に逃げる・・・(874字)




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