Climbing


 それは、唐突にやってきた。

 極彩色を纏った巨大な物体。それはどんとばかりに彼の眼前に聳えている。
 それを見上げながら、彼は覚悟を決めて一歩を踏み出そうとした。
「おい、何するつもりだ!」
 友人の声が、彼の足を止めた。だが振り向きはしない。
「俺は行く」
 友人が背中で溜息を吐くのがわかった。
「どうしてもか」
「そうだ。俺はこの頂上を極めてみせる」
 再び、深い溜息。
「バカだよ、お前は」
「そうかもな」
「・・・・・・帰って、来いよ」
 返事の代わりにちょっとだけ友人の方を向いて、彼は微笑んで見せた。
 そうして真っ直ぐ、彼はその物体に向けて歩き出した。

 ゆっくりと、上っていく。一歩一歩、確実に。

 どれくらい上っただろう。
 だが下を見る気にはならなかった。彼が望むのは、ただ高処のみ。
 足元の質感が変わった。幾分湿り気と熱を帯びている。
 その意味を考えて一瞬足を止めた彼に、空気を切り裂いて襲ってくるものがあった。

    ※    ※    ※

 首元がむずむずして、反射的に手で打った。

「どうしたよ?」
 連れが訝しげに問うのに、彼はその手を見せる。
「虫がいたんだ、首んとこ。ほら、仕留めた」
「山だしな、虫もいるよな。しっかし疲れたー。何かもう立ち上がる気力ねーよ俺」
「でもいい眺めじゃん」
「・・・まあな」
 そうして二人は、満足気な笑みを浮かべる。

 山登りでようやく辿り着いた頂上。
 へばっている二人の前には、夕日とそれに染められたどこかの遠い街並が広がっていた。



毎度のことながらやおい(ヤマなしオチなしイミなし)であります。
微妙に山はあるけどヤマ違いだしねぇ。(665字)




  →戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送